ふじの宿

主にドラマやライブの雑多な感想を書いています。

何者でもない若者が何かになるまで 麒麟がくる16話

 

大河ドラマ麒麟がくる」が面白い。

 

感想をTwitterでぽちぽち呟いておりましたが、16話を観てあふれんばかりの感情が140字では収まらずこうしてブログを始めた次第でございます。

 

いやぁ麒麟がくる16話、終始感情をゆさぶられ続けて視聴後「うわぁぁぁ!」とわめきながらカーペットに突っ伏してしまいました。麒麟がくる序盤のクライマックスは来週でしょうが(楽しみ)、これまでの集大成はこの16話だったように思います。

 

まず16話のあらすじはこちら→

 

高政(伊藤英明)を討つべく出陣する道三(本木雅弘)。国を二分する戦に、明智家はどちらにつくべきか光安(西村まさ彦)は思い悩む。一方、光秀(長谷川博己)は戦を回避すべく、尾張の信長(染谷将太)と帰蝶(川口春奈)の元へ向かった。道三に肩入れして戦に手出しをしないこと、その代わりに織田との盟約を破棄せんとする高政を一命をかけて押しとどめると訴える光秀。しかし弟・孫四郎(長谷川純)に手を貸さずに死に追いやったとして光秀に対する不信感が拭えない帰蝶は、光秀を厳しく突き放す。

                              (公式HPより)

この先、考察といいますか、いままでのまとめがメインですので、16話の詳しい内容は省いています。16話の内容が知りたい!という方はほかの方のブログや記事を見た方が詳しくわかると思います。

 
注意

ここからは完全に個人の意見です。ドラマをみてとった私なりの解釈を吐き出しますので、違う!と感じたらそっとブラウザを閉じてください。

また、当方世界史選択で日本史知識中学どまりのため、ここ史実と違うよ!ポイントがあったらこっそり教えていただきたいです。

 

これまで描かれてきたもの

さて、改めてここまでの16話、タイトルにも書いたように、「何者でもない若者が何かになるまで」を描いてきたのだと思いました。公式コメントにもある通り、序盤の十兵衛はまだ何者にもなっていない若者です。これから歴史上の英傑、明智光秀になっていくのでしょう。ただこの16話まで、十兵衛は外からみれば何者かにはまだなっていません。1話と同じく守護代に仕える中堅武家の跡取りです。では「何」が変わったと感じたのか。それは十兵衛が「自分の進むべき道の一端をつかんだ」ことです。

 

私はこれまで十兵衛に対して、「どっち寄りなんだよ!」とツッコみたくなることがちょいちょいありました。特に高政に対峙している時。どっちつかずといいますか、宙ぶらりんな印象です。周りにゴーイングマイウェイな人物が多い分、その性質は周りから浮き出て見えました。それはなぜか。序盤を見返して、「十兵衛はよりどころ、判断基準を失ってしまったのだ」と考えました。煮え切らないのは必然だと。

 

よりどころを持つ人たち

このドラマ内の人物達は、時代背景も相まってか自分の心情を支えるよりどころやハッキリした判断基準を持っている人が多いと感じます。例えば光安叔父上は家督を十兵衛に継がせるまで領地を守る、という確固とした信念をもっています。そのためなら日和見にもなるし、気に入らない若造相手に踊ることもできる。高政は父を廃し、美濃を国内を強固にしたい。国衆たちは自分の領地を守る。明智の家臣たちは主君に従い、武士としての役割をまっとうする。牧殿や煕子どのは、家を守り、家長の意思を尊重する。など、かなり主観入りでまとめましたが、選択を迫られたときの判断基準が明確だと思うんです。それは身分や立場に応じてやるべきことがある程度決まっていたから、というのもあるのではと思います。だから悩まずにすむ。そんな中で悩んでしまう十兵衛は、この基準を失ってしまった、そう思うのです。

 

これは完全に憶測ですが、もっと若い頃の十兵衛は迷わなかったと思うのです。それは若さもありますが、父の教えが根底にあったのではないかと思うからです。6話にて、父から「将軍は武士の頭領だ」と教わってきたと十兵衛はいいます。将軍を中心とし、その権威のもと、各国の守護が土地を治める。武士はそれに仕える。いうなれば、「正当な(当時の価値観で)主君に仕え、代々の領地を守る」という武士のありかたに疑問をもっていなかったのではないか、と思います。父の教えのとおりに主君を敬い、領地を守る。何もなければそんな生き方をしたのではないかなぁ、と勝手に想像しています。

 

こう仮定するとして、なぜ十兵衛の基準は崩れてしまったか、これにはいくつか要因があったと思います。

よりどころが失われる要因

明智荘は国境付近にある

 1話で、明智の領地は国境に近く、盗賊の襲撃をたびたび受けています。否応なしに外の世界と触れる機会をもっています。世の中の変化を感じ取ることもあったのではないでしょうか。その象徴的な出来事が鉄砲との出会いです。盗賊でもかような武器を手に入れられる、今までとは違う何かが起こっていると感じたでしょう。

②利政(道三)の存在

 利政はそれまでの守護ー守護代ー国衆という関係に力で入り込んだ新時代の傑物です。これまでのような将軍家の威光や血筋ではなく、力あるものが権力を手に入れるという新しい時代の象徴のような人物が身近にいる。これは、これまでの在り方が変わっていくという実感を十兵衛に与えたのではと思います。

③諸国に見聞をひろめに行く

 通称お遣いクエスト。序盤十兵衛はいろんな人の遣いにホイホイおくられていますが、能力がありかつ野心のない十兵衛は動かしやすかったのでしょう。それにより十兵衛は確実に世の中が変化していることを目で見て肌で感じています。時の英傑や牙をむきつつある若者にふれ、自分になかった価値観を知る。激動の中で美濃はどうあるべきか、十兵衛、苦悩のはじまり。

 

これらの体験によってゆさぶられた十兵衛にトドメをさしたのが、

 

④利政の思想に惹かれる

 だと思うんですよね。最初は(というか最後まで)やりかたが気に入らなくて反発していた十兵衛。奇しくもその利政からのお遣いクエストにより見聞を深めたことで、利政の広く世界を見る姿勢に共感できてしまい、惹かれてしまう。こうなったら、もうどうしたらいいのー!!状態です。今まで信じていた自分の価値観と新しい思想、それを体現する主君がいて、それまで自分を支えていた基準が崩れてしまう。

 

長谷川博己さんのインタビューでもありましたが、十兵衛のセリフには「…」が多い。判断基準が定まらなくなってしまったから、スパッと決断することができない。この頃の十兵衛の判断は理論で武装されているものが多いと感じます。気持ちや思想で判断できないから理論や客観的な正しさで判断する。それは間違ってはいないと思いますが、どうしても自分が完全に納得することはできないんじゃないかと思います。

 

自分のやりたいことは何か

しかし、こうした経験のなかで、これから自分がどうあるべきか、その答えを出す材料を同時に得ていきます。

 

十兵衛が最終的に求めるもの、それは争いのない平和な世になることです。争いはもう沢山だ、平和が良い、と何回も口にしています。それは紛れもなく本心でしょう。

 

ではそのためにはどうしたらよいか。それは麒麟をよぶことです。そのためにはどうしたらよいのか。美濃一国に考えがとどまっていては叶いそうにない。外では大名同士の争いが激化している。今のままでは将軍のちからも弱い。どうすればいいのか。そこに差し込んだ一つの道が、

 

大きな国をつくること

 

だったのではないでしょうか。そしてそれができるかもしれない、信長となら。麒麟をつれてくるのは、もしかしたら…。

 

味方して利があるのは完全に高政、しかし、自分の歩む道のヒントをくれ、もう理屈ではなく心がどうしようもなく惹かれてしまうのは道三。人の上にたつものは正直者でなくてはならぬと道三はいった。自分の気持ちに正直になるのならば、平和な世をつくるには

 

「敵は高政様」

 

 

この”道”もまだ完全に見つかったわけではないと思います。大きな国をつくる、そのためにはどうしたらよいか、信長につくにしてもどのように国をつくっていくのか、足利将軍中心の政治はもうだめなのか、これからも十兵衛は悩み、考えていくのでしょう。でも、今までとは少しちがいます。十兵衛は道の一端をつかんだからです。自分のかなえたい世をつくるため、そのために動くことができます。十兵衛にあたらしいよりどころができたのです。

 

やるべきことを知った十兵衛は、英傑への道を歩んでいくのでしょう。何者でもない若者ではなく、自分の信じる道をもった、一人の武士として。

 

その道のりを、最期まで見届けたいと思います。

 

 

 

 

長々と失礼いたしました。